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高知地方裁判所 昭和28年(行)11号 判決

原告 上野速水

被告 高知県知事

訴訟代理人 越智伝 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和二八年四月四日なした原告と訴外西岡覚との間の高知市一宮字西北野一九二一番二宅地二二坪の賃貸借契約解除の許可処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、請求原因として「請求の趣旨に記載の土地は、もと、これに隣接する原告の居宅敷地と一連の宅地であつて本件地上にも建物があつたのであるが右建物が取りこわされた後は本件土地は桑畑として他に賃貸され原告が後記の如く賃借する前一年位の間は賃借する者もなく放置されていたものである。

原告は、右の如く放置されていた本件土地を訴外西岡覚のすゝめにより、同人から物置用の建物を建築する目的で昭和一四年六月頃賃料一ケ年上等米八升と定めて賃借し、その後原告は、本件地上の桑を取除いて野菜畑として野菜を栽培していた。

ところで原告は、昭和二七年七月当初の約旨によつて本件土地の一部に物置用の小屋を建築することを計画しそのことを訴外西岡覚に告げたところ、右訴外人は之に反対し本件土地の取戻しを策し、被告に対し本件土地の原告と右訴外人間の賃貸借契約解除の許可申請手続をなし、右申請に基いて被告は、昭和二八年四月四日右解除の許可処分をなしたのである。

併しながら、被告のなした右許可処分は後記の理由により違法である。即ち(1) 本件土地はもと宅地であつたことは前記の通りで公簿上の地目も宅地となつているのである。又本件土地は僅か二二坪で独立して農耕の用に供しているのではなく原告居宅敷地の接続地として利用して居るのであり賃借目的も物置小屋設置のためであつたのであるから、之を農地として取扱つたのは違法である。(2) 仮に本件土地が農地であるとしても居住宅地に余裕のない原告にとつては穀物干場や物置等として本件土地は農業上欠くことのできない土地であるに反し、訴外西岡覚としてはこの土地を耕作しなくとも生計上支障を来すことはないのである。この点を無視してなした被告の右許可処分は、農地法の主旨に違背し違法である。そこで原告は右許可処分に対し訴願をなしたが棄却されたので茲に右許可処分の取消を求める。」と述べ、立証として甲第一号証を提出し原告本人の供述を援用し乙第一号証の成立を認めた。被告の指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「本件土地の公簿上の地目が宅地であること原告が昭和一四、五年頃訴外西岡覚の先代から本件土地を賃借し爾来野菜などを栽培してきたこと、本件許可処分当時の本件土地の所有者兼賃貸人は訴外西岡覚であること、被告が右訴外人の申請に基き原告主張の如き許可処分をなしたこと、右処分に対する訴願が棄却されたことは之を認めるがその他の原告主張事実は争う。本件土地の賃貸借契約は耕作を目的とするものでしかもその現状は農地法第二条にいう農地である。原告主張(1) の如き事由で本件土地が農地でないということはできない。被告が本件許可処分をしたのは、原告が地主である訴外西岡覚の意に反して建築材料等を搬入し農地である本件土地の上に建物を建てんとしたので、右訴外人から原告の右行為は賃貸借契約を継続するに付堪え難い信義に反する行為に該当するものとして被告に対し賃貸借契約解除の許可申請があつたので調査したところ、右申請は正当であつたのでその許可処分をなしたのである。以上の通りで原告の本訴請求は理由がない。」と述べ、立証として乙第一号証を提出し証人西岡政意の証言を援用し甲第一号証の成立は不知と述べた。

理由

原告主張の本件許可処分当時の本件土地の所有者兼賃貸人が訴外西岡覚で右訴外人の申請に基き被告が右許可処分をなしたことは当事者間に争がない。

そこで右許可処分が適法であるかどうかに付て判断するにまず原告が昭和一四、五年頃から本件土地を賃借して野菜なぞを栽培してきたことは当事者間に争のないところである。原告は物置用の家屋建築の目的で賃借した旨主張し、原告本人の供述によれば右主張に符合するものがあるが、証人西岡政意の証言と対比考察すると右主張に符合する原告本人の供述は採用し難く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

ところで、本件土地の公簿上の地目が宅地であることは当事者間に争のないところであるが、証人西岡政意の証言によると昭和九年頃には本件地上には既に桑がうえてありそれを前記の如く原告が賃借して桑を除いて野菜畑として利用してきたことが認められるのであつて、公簿上の地目如何に拘らず本件土地は農地法第二条に定められている農地というべきである。その他原告主張の(1) の事由によるも本件土地は農地でないと言えない。

而して成立に争のない乙第一号証及び証人西岡政意の証言並びに原告本人の供述とを綜合すると原告は昭和二七年七月四日頃訴外西岡覚が承諾を与えないのにも拘らず本件土地の上に建築材料等を搬入し、且コンクリートの枠を作る等基礎工事に着手して家屋を建築せんとしたこと、そこで右訴外人は建築禁止の仮処分決定を得てその執行により右建築を差止める一方、原告の右行為は、賃貸借契約を継続し難い種の信義違反行為であるとして賃貸借契約解除の許可申請をなし被告は右申請を理由ありとして本件許可処分をしたことが認められる。叙上の認定事実からすると原告の行為は本件賃貸借契約を継続し難い程の信義に反するものというべきであるから、之を理由として被告が農地法第二条第二項第一号に則り、本件許可処分をなしたのは適法である。

仍て原告の本訴請求は失当として之を棄却すべく民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 井上三郎)

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